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Goods Column, 15


ブロードアローの指し示すもの(ミリタリーウォッチについて、その2)

前に予告した通り、イギリス軍のミリタリーウォッチについて書きたいと思う。その前に少し訂正というか、補足を。前回「本物の古いミリタリーウォッチはあまり注目されていない」と書いたのだけれど、どうも様子が変わってきているようだ。シップスやエディフィスなどの有名セレクトショップがミリタリーテイストのオリジナルウォッチを販売しているのは知っていたけれど、先日覗いたユナイテッド・アローズで、本物のちょっと古いイギリス軍用クロノグラフを置いているのを発見した。また、新宿紀伊国屋書店の並びに最近オープンしたTicTac(注1)の支店には、ミリタリーウォッチだけが10本以上飾られたショーケースがあり、しかもその中にはレマニアのワンプッシュクロノ(注2)といったレアな品もあって驚いた。もとより、ハミルトンやウェンガーなどの(注3)手頃な価格で新しいものは多くの店で見かけるし、ミリタリーウォッチは新旧問わず腕時計の一大ジャンルになっているみたいなのである。

Broad Arrow
さて、本題のイギリス軍のミリタリーウォッチ。実は前述のTicTacにせよ、巷のショップに置いてあるのはイギリス軍のものが目立つ。生産された数からいえばアメリカ軍のものが最も多いのだけれど、こちらはちょっと影が薄いようだ。これは、次のようなイギリス軍ミリタリーウォッチの魅力ある特徴のためではないかと思う。

まず、現在でも名の通ったそうそうたるブランドが揃っているということ。ロンジン、オメガを筆頭に、ルクルト、IWC、珍しいところではエテルナやエベルなんかもある。アメリカやドイツが自国に優秀な時計メーカーを抱えていたのに対し、イギリスでは時計産業はあまり発展しなかった(注4)。そのため、主にスイスのこれら有名メーカーから調達せざるを得ず、その結果イギリス軍のミリタリーウォッチはとてもバリエーションに富んだものになったわけだ。(ただしこれは第2次大戦中のことで、大戦後はかなり画一的になるのだけれど。)

それからデザインのよさ。イギリスのミリタリーウォッチの典型といえるW.W.W.タイプに代表される、黒いダイヤルに白いアラビア数字のインデックスという、クールでシンプルなデザイン。これは、もはや究極という感がある。もちろんこれはミリタリーウォッチ全般に共通したものではあるけれど、イギリスのものは不思議にシックな雰囲気があって、他の国のものとは一線を画していると思う。

Broad Arrow (Lemania) Broad Arrow (Hamilton)
そして私が最大の魅力だと思うのは、ブロードアローと呼ばれるイギリス政府官給品を示すマークの存在だ。裏蓋、またはダイヤルに記されたこの特徴的なマークのおかげで、イギリスのミリタリーウォッチには明確なアイデンティティが与えられている。さらに、これはいわば国のお墨付きということであり、ひとつのステイタス・シンボルと言えなくもない。

ブロードアローが初めて使われたのは17世紀末と、歴史は古い。当時の補給大将ヘンリー・シドニー・アール卿が、家紋の三又槍のマークを軍用品の印に使ったのが最初とされている。その後イギリス議会により制式マークに認定された。第1次大戦時に支給されたミリタリーウォッチには、すべてブロードアローが記されていた。矢印の形状は徐々に変化し、初期のものは手書きや手彫りで,文字どおりちゃんと太い矢印だったのだけれど、第2次大戦以降から最近のものは単なる細い線の矢印になってしまった。まあ昔のものは味があるし、最近のもシャープな感じがして、それなりによい。いずれの時代にしても、時計本体のデザインにブロードアローもマッチしているというところか。

というわけで、私はミリタリーウォッチを見つけたときは、まず最初にブロードアローの有無を確認する。そしておもむろに裏蓋を見て、ミルスペックやその他の刻印を調べるのだ。しかし、おかげでエレベーターのボタンの矢印などを見ても、ブロードアローを連想するようになってしまったのは、我ながら困ったものだと思う(笑)。[2000/1/30]

注1: TicTacは全国的に有名な時計ショップ。本店は渋谷パルコPart.3の1Fにある。私の地元、仙台にも支店がある。
注2: これはイギリス軍のものだったけれど、同タイプのスウェーデン軍用はこちら
注3: ハミルトン・カーキとウェンガー・スイスコマンド・クロノグラフは、映画化もされた某人気刑事ドラマの影響で大ブレイク。
注4: ほぼ唯一といっていいイギリス自国のメーカーがスミスである。

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