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Goods Column, 20


タンタンのロケット

TINTIN
(c) www.tintin.com
今、渋谷Bunkamuraでは「タンタンの冒険」展というイベントが行われている(注1)。ベルギーの今は亡き絵本作家エルジェ(注2)が1929年に描きはじめた「タンタンの冒険」(原題:LES AVENTURES DE TINTIN)シリーズ。その主人公=世界的に有名な少年記者、タンタンのことは、ほとんどの方がご存知と思う。私も福音館から翻訳版が出ているこの絵本(というよりはマンガといったほうが正しいだろう)を何冊か読んだことがあるけれど、どれもとてもおもしろかった。まさに冒険とよぶにふさわしい、スリルあふれるストーリーもさることながら、ワキ役陣のキャラクターがすばらしい。特にハドック船長という、このヒゲ面の海の男が、ヨーロッパ人なのになぜか江戸っ子のようなベランメエ口調で、なんともおかしい。彼の言動は、子供にはムズカシイんじゃないかと思うほど高レベルのギャグ満載で、つい失笑させられる(注3)。

しかしなんといってもこの絵本の最大の魅力は、ひとコマひとコマ緻密に描き込まれた絵の美しさにつきる。タンタンの冒険の舞台は、エジプトや中国、チベット、はては北極、しまいには地球を飛び出して月にまで及ぶ。それらの数々の色鮮やかなシーンは、どこをとっても絵ハガキに使えそうなくらいだ。そして私がもっとも気になるのは、世界中を駆け巡るタンタンの足となる乗り物達。随所に登場する自動車やオートバイ、飛行機や船など、なんとそのどれもが実在する名車、名機達であり、それがまたリアルに描かれているものだから、うれしくなってしまう。特に飛行機は、ダグラスDC-3やボーイング727などの旅客機からデ・ハビランド・モスキートなどの軍用機まで、その選択眼にうならされる。タンタンの「モノ」解説とか、ちょっとやってしまいそうになる(笑)。

さて、前述のようにタンタンは月にも行った。このとき彼を運んだロケットは、さすがに実在のものではなく想像の産物だけれど、これがすばらしいデザインなのだ。流線型の本体に、絶妙に配置された3つの翼、そして赤と白で塗り分けられた格子模様。とにかくグッド・センス。しかも見た目だけでなく、科学的な裏付けもおさえている。例えば、搭乗員は離陸時は重力に耐えるためにうつぶせになり、逆に無重力の宇宙空間では磁石つきのブーツをはいてロケット内を移動する。月に着陸するときはどうするのかと思えば、補助ロケットで機体を反転させるというスキの無さだ。これらは現代の感覚からすれば何でもないようだけれど、このロケットが登場する物語、「めざすは月」(原題:OBJECTIF LUNE)と「月世界探検」(原題:ON A MARCHE SUR LA LUNE) が発表されたのがそれぞれ1953年と1954年というのだから驚く。なにしろガガーリンの世界初の有人宇宙飛行が1961年、そしてアポロ11号が月に着陸したのは1969年である。そのずっと前にタンタンは宇宙遊泳もこなし、月で愛犬スノーウィと散歩までしているのだ。もちろん、エルジェがこの物語を完成させるのは簡単ではなかったようで、その綿密で膨大なリサーチ作業のためにスタッフを募り、1950年にエルジェ・スタジオを設立したという。彼の作品のディテールへのコダワリがうかがわれる。

TINTIN's Rocket
冒頭に書いた「タンタンの冒険」展では、このロケットの高さ3m以上もある模型を展示しているらしい。さぞや壮観だろうと思うけれど、さすがにその大きさでは自分の部屋には置けない。そこで、もっと小さいオブジェならば原宿などにあるタンタン・ショップで売っているので、私も何種類かあるサイズの中で、いちばん小さい全長約15cm のやつを買った。素材は主に木でできていて、絵本に描かれたロケットに比べるとすこしスマートな気もする。しかし立体的になったこのロケットをあちこちの方向から眺めてみると、やっぱりこのデザインはスゴイ。この形でほんとに月へ行けるかどうかとか、この際まったくどうでもいいなと思ってしまうのである。[2002/4/27]

注1: 開催期間は2002年3月16日から5月6日まで。
注2: エルジェ(1907〜1983)の本名はジョルジュ・レミ(Georges Remi)で、そのイニシャル R.G.がエルジェというペンネームの由来。
注3: ここらへんは翻訳者のかた(川口恵子さん)の力量によるところも大きいのでしょう。

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