Mono Guide, "The Most Dangerous Game" / 「モノ」解説〜「もっとも危険なゲーム」


ライアル作品の「モノ」解説第3弾は、傑作と評価されている「もっとも危険なゲーム」。久しぶりに読み直してみたところ、確かに本作はおもしろい。ストーリー展開、特に謎解きの部分が秀逸、それにやっぱり登場人物達が皆よいですね。なお「モノ」のほうはマイナー/マニアックなものが多く、私には難しかったです。[1998/4/10]

※文中の引用(太字)は全て、早川書房刊「もっとも危険なゲーム」(菊池光訳、ハヤカワミステリ文庫)より。

【名称】デ・ハビランド ビーバー
【分類】航空機

ビーバーというのは、このごろ造られている飛行機のなかではもっとも頑丈なものの一つである。元来カナダの森林地帯の荒仕事用に設計されている。(P15)

主人公ビル・ケアリの愛機。彼のこのビーバーは水陸両用タイプ。フィンランド空軍のパイロットが着水を誤って大破した機体を、安く払い下げてもらったもので、それだけに相当ガタがきているのが以下の会話からもわかる。

「デ・ハビランド社の男、何とか言ってたかい?」
 ≪中略≫ 
「たいへん親切で、ていねいだったよ。少なくともふきださなかったからね」
「新しいエンジンがいると言わなかったかい?」
「新しい飛行機がいると言ったよ」



【名称】パーディ
【分類】

「どんな銃を使うのですか?」とたずねた。
「全部ロンドンのパーディから取り寄せたものです。今ではほかの銃は使う気になれませんね。熊には.300口径のマグナムを使います」と、肩の銃に手をやった。
(P23)

ホーマー愛用の猟銃。ボルト・アクションのライフルとあるけれど、実はパーディというブランド(メーカー?)を私は知らない。稲見一良氏の解説によれば、名銃として知られているようだけれど...。ただそれを知らない私にも、アメリカ(それも南部)の富豪であるホーマーが、このロンドン製のライフルを好んで使うことで、彼の趣味の何たるかはわかる。趣味はともかく、ホーマーは銃に関しては本当の玄人である(プロ、とは違う。あくまでアマチュアなのだ。「達人」と言ったほうがよいかもしれない)。それは以下のような、ビルが購入したショットガンをホーマーが初めて手にしたときの場面からもうかがえる。

彼は銃を手にとると苦もなくあけた。どうやってあけるのか考える様子もなかった。

また、射撃そのものについてもまさに名人である。

あき缶を空中に投げ上げると、彼はこともなげに射ち落とした。かんたんである。しごくあっさりしたものでとくにどうという射撃スタイルではない。スタイルというのは見世物用である。名人上手はただ狙って射つだけだ。

んー、ここらへんは深プラのハーヴェイにも通ずるものを感じる。やはりライアル作品の脇役はこうでなくては。

※追加 [2003/9/30]
この解説を書いた当時は「パーディ」をキーワードにネット検索しても何もヒットしなかったのに、今はパーディのホームページがあるようです。これによると、James Purdey & sons 社は1814年創業の老舗の名門。また別の資料によれば、パーディのカスタム・ライフルは最低でも、納期3年、価格は650万円(!)だとか。参考までにモーゼルあたりの一般的なライフルが2〜30万円なので、いかに高級なのかがわかる。


【名称】ダグラスDC-3
【分類】航空機

明朝6時45分の南行き便のDC3で送って、あとはカーヤ社の連中に頭をひねってもらうことにした。(P31)

「ちがった空」にも登場した、ダコタことダグラスDC3。ライアルはこの機が好きなのか。いや、単にポピュラーだからか。


【名称】メッサーシュミットMe410
【分類】航空機

「機はメッサーシュミットの410型で、あそこにいるのはクレバ軍曹です。 ≪中略≫ (P45)

ビルが約20年もの長い間、捜し求めていた機。なぜ捜していたのかは、この時点では謎。


【名称】セスナ195
【分類】航空機

彼はセスナ195型水上機をもっている。ということは水の上でなければ降りられないのだ。(P49)

ビルのパイロット仲間のオスカー・アドラーの機。セスナといえば、子供の頃、軽飛行機はすべてセスナだと思っていた(笑)。


【名称】ファセル・ベガ ファセル II
【分類】自動車

ファセル・ベガの運転手は、ゆっくりした動作で車から出ると煙草を一服つけた。運転席が狭いわけではない。ファセルII型の運転席ならパーティがひらけるくらいの大きさだ。(P60)

クロードが乗っている車。本文にもあるように、ファセル・ベガそのものはフランスのメーカーだけれど、エンジンはアメリカ(クライスラー)製になる。思えばヒストリック・カーにはこういう生い立ち(ヨーロッパ製のボディにアメリ製のエンジン)の名車が多い。コブラとか。


【名称】オースター・J1・オートカー
【分類】航空機

「イギリスの飛行機だ。オースタ水上機。エンジンが火を吹いたと言っていた」 ≪中略≫ イギリスの登録番号をつけたオートカー・モデルであった。うすい紺色の仕上げの上に濃い緑色で番号が記してあった。フロートがついているのは菜食する蚊くらいに珍しい。(P80)

ジャッドがチャーターしていた機。オースター・J1・オートカーがベースの水上機だと思われる。ちなみにこの「オートカー」とは自動車(autocar)ではなく独裁者(autocrat)のほう。


【名称】サーブ96
【分類】自動車

ベイコのブルーのサーブ車がおいてあった。(P131)

小悪党ベイコの所有車。年代的にみてサーブ96と思われる。96といえば、五木寛之の小説「雨の日には車をみがいて」にも登場している。


【名称】フランスの軍用ピストル
【分類】

銃器類には多少詳しい方だが、薄暗い光の中でひねりまわして、1874年型のフランスの軍用ピストルであることがわかるのに相当時間を要した。(P132)

ベイコ所有。1874年型とは相当古い。ということで具体的モデルは不明。すみません。しかしライアルは本当に古い銃に詳しく、好きなようだ。深プラのフェイ将軍も古銃コレクターだし、後の作品「拳銃を持つヴィーナス」などは、それが最も顕著にあらわれている。


【名称】メルセデス・ベンツ220
【分類】自動車

タクシーが1台だけのこっていた。古いメルセデス220型で、エンジンが冷えないように空気の取入れ口にボロがつめてあった。(P145)

ライアル作品には何かと登場するメルセデス。このタクシーの220は、見た目もちょっと現在のロンドンタクシー風である。


【名称】ブローニング・ハイパワー
【分類】

彼の後ろへまわって拳銃を拾い上げた。9ミリ口径のブローニング・ハイ・パワーであった。(P150)

クロード所有のこのハイパワーは、映画「ビバリーヒルズ・コップ」のアクセル刑事=エディ・マーフィの愛用の銃としても有名。話はそれるけれど、「深夜プラス1」のモーゼル、コルト・ガバメント、ワルサーPPK、「ちがった空」のワルサーP38、ルガーP08...。そしてこのハイパワーで、大戦前後の名銃と呼ばれるオートマチック・ピストルが揃った感がある。さすがライアルは押えどころを知っているというか。


【名称】ボルス
【分類】

女は、片手にボルスの瓶を、片手に中身の入ったグラスをもっていた。(P156)

ケーニッヒの情婦(?)のイルゼが飲んでいたジン。ボルス(BOLS)は1575年創業のオランダのメーカーで、現存する蒸留会社としては世界最古。いかにもオランダ・ジン的な、素焼きボトル入りのジュネヴァという銘柄が有名。


【名称】フォルクスワーゲン・タイプ 3
【分類】自動車

私はベッドの裾をまわって窓のブラインドを二本の指でひろげた。ファセル・ベガの姿はなく、濃紺のフォルクス・ワーゲンがトレーラーの前で停まるところであった。(P167)

アリスが「借りた」のではなく「買った」(なにせ大富豪なので)このワーゲンは、最初ゴルフだと思っていたけれど、年代的に違うようだ(ゴルフは1974年デビュー)。となると、まさかアリスがビートルという感じではないので、当時デビューしたてのタイプ3ではないかと思われる。


【名称】ザ・アンティクエリ
【分類】

夫人が、ザ・アンティクエリ、とラベルのついた手のついてない緑色の瓶をもって来た。ケーニッヒの奴、一応ウィスキイのことを心得ている。ただいつも使い方を誤っているようだ。(P172)

このウィスキーは知りません。現在も造られているのでしょうか?

※追加 [1999/8/6]
古本屋で見つけたちょっと昔のウィスキー図鑑に、このアンティクエリ(The Antiquary)が載っていた。1857年創業、J&Wハーディ社のブレンデッド・スコッチ・ウィスキー。デキャンタ風のボトルが高級感あふれる、銘酒のようです。


【名称】サウア&ソーンのハンドバッグ・ガン
【分類】

私は手にしていた二挺の拳銃に目をやった。イルゼのはサウア・アンド・ソーン製のハンドバッグ・ガンであった。おもちゃのようだと笑う者もいるが、いざつきつけられてみると意見が変わる。(P174)

具体的モデルは不明だけれど、S&W M36 にそっくりのリボルバ・タイプがあり(コンパクトというモデル)、それかと思われる。


【名称】ヌールデン・ノルスマン VI
【分類】航空機

私は、カナダの田舎廻りの航空会社から借りた旧式のヌールデン・ノルスマン社製のスキーばきの小型機を操縦して、スピッツベルゲンから入った。(P180)

かつてビルが「仕事」で乗っていた機。スキーばき仕様もある、ヌールデン・ノルスマン VIだと思われる。


【名称】スミス&ウェッソン M36
【分類】

ランプの明かりで見たところではジャッドの拳銃はスミス・アンド・ウェッソンの.38口径である。 ≪中略≫ 拳銃は思った通り廻転弾倉のスミス・アンド・ウェッソンだった。引金の周りの用心鉄が切りとってあった。このほうが早く引金に指がかかる。プロがやるのはこういうことなのだ。番号を削りとったりはしない。(P221)

ジャッドが使用。深プラでハーベィが使っていたのと同じ、S&W M36 であろう。ジャッドもハーベィ同様、筋金入りのプロであるけれど、えてしてプロというのはこういうシンプルな銃を選ぶようだ。


【名称】ミル MI-4 ハウンド
【分類】航空機

しかしすぐに何であるかわかった。前もって計算に入れておくべきであった。ヘリコプターだ。 ≪中略≫ 「MI-4だ。我々は俗にハウンドと呼んでいるんだ」(P256)

ロシアのヘリ。詳しいことは不明。


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