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稲見一良さんのこと [1998/12/1]

解説ページでも述べたように、作家の稲見一良さんは銃器に詳しい方である。そんな稲見さんの、小説や映画に登場する銃にまつわるエッセイ「ガン・ロッカーのある書斎」(角川書店)は、とても面白い。自らの豊富な狩猟経験に裏打ちされた内容は、とにかく興味深い。例えば「荒野の七人」でスティーヴ・マックイーンが見せたさりげないしぐさ(散弾を耳のそばで振ってみせる)とか、その道の人間にしかわからない、しびれる場面が紹介されている。また、このエッセイにはライアルの作品もたびたび登場しており、

単に銃のことをよく知っているというだけでなく、射撃や狩猟にも通じ、なによりもその世界のスピリッツというものを解している。

と、ライアルを評している。ちなみにライアルに比べると、かのアリステア・マクリーンやディック・フランシスは(銃に関しては)イマイチなんだそうである。このような稲見さんのライアル感は、文庫版「裏切りの国」の巻末解説、あるいは「冒険・スパイ小説ハンドブック」(ハヤカワ文庫)でまとめられているけれど、これは最高の名解説だと思う。

それはさておき、稲見さんは珠玉のような作品をいくつも残されている。なかでも私が好きなのは、短編「セント・メリーのリボン」とその続編の「猟犬探偵」(いずれも新潮文庫)だ。主人公の竜門卓は、猟犬を専門に探す探偵。相棒のアイヌ犬、ジョーと山の中で暮らしている。彼は、寡黙で、自らにルールを律し、ヤクザの脅しにも屈しないタフな男。そんな彼が事件のさなかに全盲の少女に出会う。そして彼が少女に対してとった心優しきふるまい。その他、素晴らしい人間達と動物達がおりなす、全編ハート・ウォーミングな物語...。私ごときがこんなふうに述べると、却って陳腐に思われてしまいそうで辛いところだけれど、これぞリアル・ハードボイルドだ。
しかし惜しむらくは、これ以上の続編が望めないこと。そう、稲見さんはすでに故人であられるのだ。ただただ残念としか言いようがない。


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