腕時計のルーツ(ミリタリーウォッチについて、その1)
それから、そのエクスプローラーIのライバルとして最有力なのが、IWCのマークXII。近々生産中止(注2)することもあり、これもすでに品薄状態になっている。この2つの時計に共通する特徴は、ステンレススチールケースに黒いダイヤル、そして視認性のよい白いアラビア数字のインデックスといったところ。これはひとことでいえば、ミリタリーテイスト。そう、どうやら巷ではこのミリタリーテイストの時計が流行しているようだ。 しかしその一方で、ミリタリーテイストならぬ、実際に戦場に使われた本物のミリタリーウォッチは、あまり注目されていないように思う。ここでまた自分のマイナー指向をさらすようだけれど(笑)、私は第2次大戦あたりのちょっと古いミリタリーウォッチが好き。性能的には最近のモデルとは比べものにならないけれど、シンプルで完成されたデザインや、アンティークウォッチとしてのノスタルジックな雰囲気に惹かれる。そして、裏蓋に刻まれたミルスペック(注3)やその他のコードを読みとる楽しみは、ミリタリーウォッチだけのものだ。 ところで、腕時計のルーツはミリタリーウォッチだということをご存知だろうか。正確には「男性用の」という注釈つきだけれど、時計が一般的になった19世紀前半の昔、男性は懐中時計(ポケットウォッチ)を持つのが紳士のたしなみとされ、そして腕時計は女性がするものというはっきりしたルールがあった。当時の腕時計はブレスレットに施された彫刻や宝石などの装飾性が重視され、時計はいわばオマケであった。つまりあくまでアクセサリーであり、だから男が腕時計をするなんてことは、もってのほかだったのである。しかし19世紀終わりの植民地戦争において、任務のおりにいちいちポケットから懐中時計を取り出すのを面倒に感じた将校が、懐中時計を皮紐で手首にくくりつけることを思いついた。これが男性用の腕時計のはじまりである(注4)。そして戦争を通じて性能や品質が向上し、また安価に供給されるようになった腕時計は、やがて普通の場においても男の腕にはめられるようになったのだ。 そんな由緒正しい歴史を持つミリタリーウォッチなのに、前述のようにマイナーなために日本ではなかなか実物にお目にかかることができない。アンティークウォッチの専門ショップには、それなりに置いてはあるのだけれどコンディションのよいものは稀だし、しかも値段も相当高い。ところが、私が最近ハマっているインターネットオークションサイト、eBayはさすがである。かなりレアな品の出物もあるし、なにより安い。特に注目しているのは第2次大戦以降のイギリス軍のもの。その魅力については、またこの次に書くことにしたい。[2000/1/10]
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