次のクルマ選び(その1)
理由はともかく、シトロエンBXを乗りかえることを決意した。ここでは、BXの次のクルマを選定するに至るまでの経緯などを書いてみようと思う。まず具体的な候補車をあげてみると、フォード・フォーカス、ルノー・クリオ(ルーテシア)、サターン・SW2ワゴン、クライスラー・PTクルーザー、サーブ9-3、ルノー・メガーヌ、プジョー206、シトロエン・クサラ、、、こんなところである。予算はだいたい新車価格で200万円前後。フランスを中心としたヨーロッパのコンパクトな5ドアHB(ハッチバック)、がターゲットのつもりだけれど、そこはやはりBXが選択の基準になっているということだ。それでは順を追って絞り込んでみよう。
■フォード・フォーカス
まずは、フォーカス。1999年ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー、2000年北米・カー・オブ・ザ・イヤーの史上初のCOTYダブル受賞という鳴り物入りで、日本にこの春導入されたばかりのクルマだ。私がフォーカスを知ったのは2年位前のジュネーブ・ショーだったか、フランクフルト・ショーだったか。ハッチバック・モデルの斬新なボディスタイルが印象的だった。エスコートの後継車ということで(注1)どうせ日本には入ってこないんだろうと思っていたら、うれしい誤算で日本導入が決まり、気になる価格は私の好きな5ドアHBで197万円とリーズナブル。自動車雑誌のインプレッションもおしなべて高評価で、これはかなりイケそう。日本ではあまりパッとしないブランドイメージのフォードだけれど、何をかくそう私がはじめて買ったクルマが初代フェスティバ(もちろん本当はマツダ製)で、私は好きなメーカーだ。というわけで、BXの乗りかえを決意した時点で本命はこのフォーカス。そして、満を持して実車を見に行った。事前に「フォーカスのすべて」の類を読みあさっていたため、細かいところのデザインや機能などはほぼ頭に入っていた。その上での第一印象は、「思ったよりフツウっぽい」であった。もちろんボディスタイルはやはり相当なもので、随所にエッジの効いたデザイン、見るからに剛性感もありとても気に入った。しかしインテリアが、造形は個性的なんだけれども細部が妙に国産車ふうであり、たとえば木目調のパネルや、シンプルすぎるメーターの針やロゴなんかが、まったく外車ぽくない。裏を返せば、それは質感が高いともとれるのだろうけれど、BXのプラスチッキーでチープな、しかしセンスよいデザインのインテリアに慣れた私には、すこし肌が合わないのだった。正直言って、はじめてBXのシートに収まった時のあのエモーショナルな感じが、フォーカスにはなかった。とはいえ、まずは試乗してみることにしたところ、折りしも外はすごい雨。おかげでワイパーの使い方の練習にはなったけれど、肝心の乗り味のほうはよくわからなかった(笑)。それでも、段差を乗り上げた時などにボディ剛性の高さは実感できたし、水の浮いた路面でも不安のない直進性、その反面キレのいいハンドリングなど、総じてよい感じではあった。同行した妻も、なかなかよい印象を持ったようだ。あとは、私のインテリアの趣味だけが問題のようである。さあどうしたものか。
■ルノー・クリオ(ルーテシア)
単に趣味だけで現行新車の中から一台選ぶとすれば、それはクリオ(日本での名称はルーテシア、ここではあえてクリオと呼びたい)。思うに、今もっともフランス車らしいメーカーは間違いなくルノーだ。特にトゥインゴなんて、個性的、安い、センスいい、というフランス車のよいところが全部ついていて、これを世に出したルノーはすごいという他ない。かたやプジョー/シトロエンのPSA陣営は、すっかりインターナショナルなクルマづくりになってしまい、残念に思う。さて、クリオはトゥインゴなどに比べればずいぶんまっとうなボディスタイルの、しかしどこかサンクやキャトルなど往年のルノーが思い浮かぶ魅力的なクルマだ。折りしも近所の日産ディーラーでルノーを扱うようになったので、出かけてみた。実際目にすると、まずはコンパクトだなあと思う。そしてやっぱりフランス車独特の雰囲気を持っている。インテリアも、BXに比べると現代的でさっぱりしているとはいえ、うすいグレー基調の明るい室内、そして小さいボディのわりにたっぷりしたシートもいい。逆に気になるのは、そのコンパクトさゆえにユーティリティが犠牲になること。室内はまあまあ、でも荷室は明らかにせまい。荷物を満載して遠出、といえば年に数回妻の実家に行くぐらいのものではあるけれど、やはり少しつらそうだった。それから後席にパワーウィンドウがつかないのも、後ろには主に子供しか乗らないことを考えると、運転席から操作できないのは不便だ。そして価格。最近マイチェンしたのか、以前は5ドアATで確か200万円切っていたのが、現在は205万円になっていた。197万円でフル装備のフォーカスに比べると、なかなか無視できない差である。ちなみに、クラス的にフォーカスと比較するなら本来はこっちというルノー・メガーヌも、クリオの隣に展示してあった。メガーヌはデビュー当初から大好きなクルマで、BXにもしものことがあったら次はメガーヌと、ひそかに決めていた。しかしこれも最近のマイチェンで、気に入っていたフロントまわりの顔つきがガラリと変わって、今ではまったく眼中にないものになっていた(ところが後に、思わぬ形でメガーヌは候補に再浮上してくるのだけれど、それは後述)。結局、クリオは妻も同様の問題を感じていて、試乗もせずに日産ブルーステージを後にした。
■サターン・SW2ワゴン
最近やっと私の地元仙台にもサターンのディーラーがオープンした。このサターンのような、ありきたりのアメ車が実は結構好きで、「クルマなんてなんでもいいんです」とみせて、そのくせほんとうは狙っているというか、そういう裏返しのクルマ趣味が感じられると思うのだ(よくわからんですね)。しかもサターンは安い(167万5千円から)。というわけで、いざ試乗しにでかけてみた。ターゲットはSW2ワゴンという、セダンと全長が同じ、つまりややショートルーフのワゴン。ボディスタイルは、正直言うと好みではない。フロントウィンドウが寝すぎていると思うし、顔つきもなんだかコワイ。インテリアは、まさしく今どきのアメ車という感じで、これは悪くない。しかし、やはり寝すぎのフロントウィンドウは座ってみても不自然で、気になった。そして荷室は、これでワゴンを名乗るのはいかがなものかと思うほど、せまい。この時点でほとんど購入意欲はなくなっていたけれど、いちおう試乗してみる。あまり剛性感のない柔らかい乗り心地は、BXに通じるものがある。しかしパワステが軽すぎ、スローなハンドリングは少し不安。エンジンはパワー的には問題ないけれど(1900ccの126ps)、音も回転感覚も特徴がなくつまらない。やはり私は「クルマなんてなんでもいいんです」とはいかないようであった。
■クライスラー・PTクルーザー
日本デビューを果たしたばかりのPTクルーザーも見にいった。サターンと同じアメ車ではあるけれど、こちらは日本人にもわかりやすい「これぞアメ車」というキワモノだ。見た目はアメリカン・グラフティの世界そのままなのに、私のような所帯持ちがファミリーカーとして使うのに耐えうる現代的機能をも兼ね備えた、魅力的なクルマといえる。しかしPTクルーザーは、妻からあっさり却下された。「一介の主婦がこの車で、子供を連れて、イトーヨーカドーに買い物に行けるかしら?」と聞かれ、もちろんこちらはグウの音も出なかった。
■サーブ9-3
予算を抜きにすれば、サーブ9-3はひじょうに欲しいクルマだ。先代のサーブ900について前にも書いたように、とてもいいイメージを持っていた。ヤナセが扱うようになってから、街中で見かけることも多くなったとはいえ、やはり少しマイナーで、それゆえスノッブな雰囲気がサーブにはある。問題は、もっともベーシックなモデルでも300万円オーバーという価格であり、あきらめていたのだけれど、中古車情報誌に1年落ちの程度のよさそうな9-3が、200万円台前半で出ているのを発見。走行距離は1万km以下で、色も欲しいと思っていたシルバー(注2)。これならと思い、あわててヤナセ中古車センターに見に行った。しかし、すでにそれは売れてしまっていた。くやしいから、同じ売場にあった200万円きっていた中古のメルセデスのSクラス(126シリーズ)でも買ってやるか、とは思わなかったけれど、ただやり場のないむなしさを味わったのだった。
ここで、「そうか中古という手もあるんだよね」と気づいた私。その矢先に、雑誌Tipoに載っていた、仙台ではわりと有名な某外車ディーラーの中古車広告に目がとまった。
'96年式ルノー・メガーヌ   走行1500km   158万円
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これは、私の好きなマイチェン前のメガーヌ。それの、走行1500kmということは、ほとんどデッドストックものだ。これは果たして、運命の巡りあわせなのだろうか。(続く)[2000/10/2]
注1: |
エスコート、フィエスタといったヨーロッパ・フォードの小型車は、フォード傘下のマツダの存在により、日本に正規導入はされないのが通例だった。 |
注2: |
航空機メーカーでもあるサーブには、やはりシルバーが似合うと思う。 |
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