ビールあれこれ ● ビールの歴史 ビールはワインに次ぐ古い酒であるらしい。紀元前3000年頃のメソポタミア文明を起こしたシュメール人により、すでにビールの製法が記録されている(注1)。さらには紀元前1800年頃の「目には目を」で有名なハムラビ法典に、「労働者の賃金の一部をビールで支払う」というような条文が書かれているのは興味深い。 ● ビールの種類 ビールは、製法によって大きく「上面発酵」(注2)と「下面発酵」(注3)の2つの種類に分けられる。世間一般でいうところの普通の「ビール」はピルスナーと呼ばれ、これは下面発酵である。いっぽう上面発酵のビールにはスタウト(ギネスが有名)やイギリスで主流のエールなどがある。 ピルスナー・ビールは通常、酵母の働きを止めるために熱殺菌処理(注4)を施す。その熱処理を行わず、酵母のろ過だけに留めているのがいわゆる「生ビール」である。新鮮さが命の生ビールは、やはり一番美味しい。だから私は、飲み屋では必ず生ビールを注文している。生ビールが置いてある店で瓶ビールを頼むのは、なんだか損したような気分になるのだ(笑)。 ● ビールと発泡酒 ビールとは「麦芽、ホップ、水及びその他の原料(米やスターチなど)を原料として発酵させ、麦芽が全体の50%以上のもの」と定められている。この条件を満たないものはビールとはみなされず、したがって酒税も安くなる。最近それに目をつけたメーカーが、麦芽の含有量を押さえ「発泡酒」と称して数々の製品を発売している。これも飲んでみるとなかなか遜色ない味だ。前にどこかで書いたけれど、私は冷えていれば大抵のものは美味しいと思うほうなので、この安さは魅力。今ではもっぱら発泡酒を飲むようになった。しかしこうして発泡酒が定着すると、また税法が改訂され発泡酒も高くなるんじゃなかろうか。 ● ビールといえば ビールといえば思い出すのがロバート・B・パーカーの小説の主人公、スペンサーだ。彼はボストンの私立探偵。定期的なジョギングとウェイト・トレーニングを欠かさず、料理が得意で食べる物と飲む物にうるさい。そんなヘルシーで美食家の彼が、一番好きなのが実はビール。もちろんウィスキーやワイン、シャンパンなどもよく飲むのだけれど、やはりスペンサーといえばビール、というくらい多くの場面でビールを飲んでいる。作品中に具体的なビールの銘柄も度々登場するので、いくつかピックアップしてみる。 その後、スペンサーのお気に入りとなるのが、アメリカのロリング・ロック(Rolling Rock)のエクストラ・ペイル。もともとスペンサーは国産(=アメリカ)のビールを好まなかったのだけれど、このロリング・ロックについては、「儀式」(1982年)という作品中、恋人のスーザンとレストランで食事中、運ばれてきた鴨料理を前にして、「ロリング・ロックとカモときみさえあれば、板葺き屋根の下でも」などという愛の言葉(?)を吐いている。このロリング・ロックもマイナーだけれど、実は飲んだことがある。ずいぶん前に明治屋で見つけたのだけれど、瓶のデザインがとてもいいと思った。味の方はアメリカのビールらしい薄い感じで、特にこれといったところはなかった。またもやスペンサーの好みを疑ってしまう。 やはり「儀式」の中で、スーザンの家にチェコスロバキアのピルスナー・ウルケル(Pilsner Urquell)が置いてあり、「金持ちの愛人でもいるのか?」と、スペンサーがからかうくだりがある。さすがスーザン、ピルスナー・ビールの元祖であるこのビールは、まるでシャンパンのような(ほめすぎか?)味わい深さを持っている。スペンサーもこのビールの格となりは知っているようだから、彼がマイナーなビールを好むのはやはり狙ってそうしているのだな、と思うのだ。[1999/3/10]
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