Mono Guide, "Venus with Pistol" / 「モノ」解説〜「拳銃を持つヴィーナス」
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これはライアルとしては異色作。まずテーマが絵の売買/密輸であるということ。主人公のケンプはそのエキスパートだ。前4作中、深プラをのぞく3作の主人公が全てパイロットだったことを思うと、ずいぶんな変わりよう。ただしケンプが銃にとても詳しいところや、己のルール・信念にのみ従う男であるという点は、ライアル流。なお、翻訳が小鷹信光氏というのも異色。小鷹さんといえばハメットの一連の作品のイメージが強く、正直言って違和感があった。「モノ」的にもさっぱりで、目新しいものはほとんど登場しない。ほんとに異色である。[1998/10/12]
※文中の引用(太字)は全て、早川書房刊「拳銃を持つヴィーナス」(小鷹信光訳、ハヤカワミステリ文庫)より。
- 免税品のティーチャーズのびんをとり出し、気つけがわりに一杯ひっかけ、衣類などをあたりに放りだし、ベッドの上に散らばった額縁のピンを拾い集めた。(P31)
主人公ギルバート・ケンプが、絵の密輸の依頼人ドナ・マルガリータ・ウルベルトに会いに出かける前に飲んだスコッチ・ウィスキー。次作「死者を鞭打て」にも登場。ライアルの好みなのか、単にポピュラーなのか。
- 「気がつかないらしいけど、車はもう三十秒は待っているようよ」
そのとおりだった。でっかいメルセデス600だった。(P34)
ドナ・マルガリータの車。彼女はニカラグアの有力者であり、大富豪である。車もそれにふさわしく、メルセデスの中でも最大級の600である。なお、これは「深夜プラス1」にも登場。
- おれはじっくり考えた。おれがいちばん欲しい拳銃といえば、.22口径のワルサーPPKか、あるいは同じ口径の小型モーゼルかブローニング・ベビーだ。(P98)
ケンプがドナ・マルガリータの従者カルロスに拳銃の入手を依頼する時に考えた候補達。PPKは今更説明不要、モーゼルはHScのことだろう。ブローニング・ベビーは.25口径で、この3つはどれもコンパクトなピストル。
- 「持ってきた−−あんたの望みのものだ。ブローニング・ターゲットだ」「二連銃身のやつだな?ホローポイントの弾丸にしてくれただろうな?」(P119)
結局ケンプが選んだのは、このブローニング・ターゲット。残念ながら資料が見つかりませんでした。そこで本文中の説明を以下に掲載。
ブローニング・ターゲット.22口径で−−大きさも手ごろだし、ふつうの軍用オートマチックよりごくわずか小さめで、長い銃身がついている−−全長は1フィート近くにもなり、それに丸身を帯び、格子模様を刻んだ一枚板の持ちやすそうな銃床がついていた。(P122)
ちなみに、弾丸まで指定するところに、ケンプの銃に対するこだわりがうかがえる。
- 実際のところ、この拳銃を使ったことはなかった。これはかなり新しい型に属し、おれは自分の、戦前製のコルト・ウッズマンのほうが気に入っている。(P122)
ブローニング・ターゲットの引き合いに出した銃。このウッズマンも、設計は同じジョン・ブローニングである。
- 車は、通りを少し上がったところの街灯の下に停めてあった。右後部の泥よけに大きなさびた傷のついた、淡い黄茶色のフォルクスワーゲンだった。(P142)
絵画鑑定家アンリ・ベルナールが乗ってきた車。泥よけ(というのが独立したフェンダーのことなら)があるなら、タイプ1=ビートルだろう。
- さっと横に飛びのき、壁に背をつけたが、そのときには彼の手から銃が落ちた。ゆっくりと近づき、ひろい上げた。コルト.45口径オートマチックだった。でっかい。(P290)
ケンプを襲った奴が持っていた、コルト.45 = M1911。これも説明不要。
- ウィーンでは、カルロスが人から借りたメルセデス220で迎えにきていて、おれたちを町まで乗せてくれた。(P317)
前述の600よりは古く、小さいが、カルロス(というかドナ・マルガリータ)はどこに行ってもメルセデスに乗りたいようだ。なお、220は「もっとも危険なゲーム」でも(タクシーとして)登場。やはりライアル作品にメルセデスは多い。
- 「ニールシュタイナー・ウールベルク・リースリング・ファイネ・アウスレーゼ・エーデレヴェッシュ−−1959年だ」(P324)
えー、ドイツワインである。わかる範囲では、ニールシュタイナー(Nierstein)は産地(ベライヒ)、ウールベルク(Olberg)はたぶん畑、リースリングはブドウの品種、ファイネはブドウの等級(?)、アウスレーゼは「よく熟したブドウを選りすぐった」ということ、エーデレヴェッシュは...生産者かな?(自信なし)それと、1959年はもちろんヴィンテージ。
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