Mono Guide, "Shooting Script" / 「モノ」解説〜「本番台本」
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ライアル作品の「モノ」解説第4弾は、個人的には深プラの次に好きな作品「本番台本」。書評でも述べているように、登場人物が皆よい。しかしタイトルが「本番台本」って、なんか変にカン違いしそうで(笑)、もうちょっと何とかならなかったのか?なお「モノ」的には、やはり飛行機がメインで、今回は特に軍用機が多かったです。[1998/5/13]
※文中の引用(太字)は全て、早川書房刊「本番台本」(菊池光訳、ハヤカワミステリ文庫)より。
- 以前の自分であれば気がついていたであろう。しかしいまは、ルート・デルタをプエルト・リコに向けて、150ノットの速度でのんびり飛んでいるダヴ機の操縦席でうたたねをしているのだ。(P5)
主人公キース・カーの愛機。「もっとも危険なゲーム」の主人公ジャックの愛機ビーバーと同じくデ・ハビランド社製だ。やはりライアルはイギリスの飛行機が好きなのだろう(もっとも、ビーバーはカナダ製だけれど)。このダヴはプロペラの輸送機なのに、キースはこれでジェット戦闘機と空中戦をやり、相手を撃墜してしまう! やはりパイロットは腕なのか。余談だけれど、私は当初ダヴという飛行機を知らなくて、なんとなくDC-3=ダコタとイメージがダブっていた(シャレじゃないです)。双発プロペラという点は同じだけれど、ダコタよりずっと小さいようだ。
- 相手の飛行機の型はもちろん覚えがあった。ヴァンパイア・ジェットだ。(P5)
南米の小国レプブリカ・リブラ空軍の戦闘機。キースの宿敵ともいえるネッド・ラフターはその空軍大佐として、このヴァンパイア(F5型)12機から成る飛行隊を率いる。ちなみにまたもやデ・ハビランドである。文中にも出てくるけれど、このヴァンパイアは機体が木でできており、これは第2次大戦に活躍したデ・ハビランド・モスキートなんかと同じ。木だけに軽量・高速なのだけれど、その製造技術たるやスゴイ。でも、すぐ燃えそうでこわいなあ(笑)。
- 席につくと、給仕が私のビター・レモン入りのバカルディ・シルバー・ラベルの注文をとっていた。(P11)
ホテルのバーでキースが飲んでいたラム。文中でFBIのエリスが「バカルディというのは、アメリカのラムの消費量の60パーセント以上を占めているのだが、プエルト・リコでは 3パーセントそこそこなんですね。 ≪中略≫ 今じゃこの島の最大の財源なのだが、プエルト・リコ人は自分のところのラムは飲まないんですよ。妙な話だ。]と説明している。事実、バカルディはライト・ラムの代表銘柄である。ちなみにラム(rum)の語源は昔の英語の「rumbullion=興奮」から来ているらしい。
- それとダヴを売った金を合わせると、新品のダヴ8型かエアロ・コマンダーの一時金として相当な額を払うことができる(P28)
ネッドにレプブリカ空軍に誘われたキースが、報酬をもとに皮算用したときに頭に浮かんだ飛行機。結局は断った。理由は後でキースがヒロインで弁護士のJ.B.ペンローズに言っている。「道義的な問題があったんでね。"戦争ぎらいのカー"ということになってるんですよ」(P28)
もちろん、本当の理由はもっと入り組んでいるようだ(本文を読めばわかります)。ちなみにこのエアロ・コマンダー、機種が不明だけれど、当時デビューしたばかりの 680Fと思われる。
- 「ありがとう。朝鮮だった。やつは、オーストラリア空軍の第77飛行中隊に所属していた。連中はミーティア8型を持ってきてミグと対抗しようとした。 ≪中略≫ おれはセイバー中隊に配置されていて、やつらの上空警戒をやっていた。」(P33)
キースがネッドとのつきあいについて語ったシーン。朝鮮戦争の空中戦事情そのものである。当初、連合軍の投入したミーティアはミグ15にまったく歯が立たなかったけれど、その後投入されたセイバーは、ミグに対して圧倒的な勝率を残した。セイバーといえば、デズモンド・バグリイの名著「高い砦」(ハヤカワ文庫)にも登場し、私はそのイメージが大きい(実は最近読んだばかり)。
- また彼は、自分のジャガーE型でキングストンの町まで送って行こうと申し出たが、この方のスペイン式礼儀は即座にことわった。(P46)
キースが飛行機の操縦を教えている裕福な若者、ディエゴの車。最近、Eタイプの実車を見かけたのだけれど、元祖ロングノーズ・ボディでデカイというイメージがあったのに、それほどでもなく意外だった。やはり、れっきとしたスポーツカーなのだ。
【名称】 | チンザノ / カナディアン・クラブ |
【分類】 | 酒 |
- 中にいくらも減っていないジンの瓶が3本、それにチンザノとキャネイディアン・クラブ、グラスと革製のアメリカの契約法2冊があった。(P53)
J.B.のホテルの部屋の戸棚にあった酒達。チンザノはイタリアン・ベルモット、カナディアン・クラブはもちろんカナディアン・ウィスキー。チンザノはマーティニに使うのかと思ったら(ジンも戸棚に入っている)、J.B.がキースに「チンザノに氷を入れて」と命令(笑)しているので、ロックで飲るのが好みのようだ。
【名称】 | スチュードベーカー アバンティ |
【分類】 | 自動車 |
- 彼女はサングラスをかけ、タオル・ジャケットにサンダルばきでまっ赤な宇宙船の方へ歩いて行った。よく見たらスチュードベーカーのアバンティであった。(P61)
J.B.の車、アバンティは今は亡きスチュードベーカーのスポーツカー。例によって私は古いアメ車は詳しくないため、こちらのアバンティのホームページをどうぞ。ちなみにJ.B.の運転は、キースいわく「海岸道路を1マイルほど東へ逆戻りした。そんな短距離でも音速に近いスピードが出た。」というから、スゴイらしい。
- 自分の知る限りの酒がそろっていた。オーストリアのスワン・ビールまであった(P110)
ネッドの自室の冷蔵庫にあったビール。スワン・ブルワリーは1857年創業。日本でも売ってます。
- スミス・アンド・ウェッソンのマグナム.357であった。シカゴ警察が使っているガッシリした重い銃である(P111)
ネッド所有。記述からリボルバーのM19と思われる。ルパン三世の次元大介も愛用。
- 私はB25、別名ミッチェル、について人から聞いたことを思いだそうと努めた。あまり思いだせなかった。(P127)
今日では軍用機も民間機と同じようにスッキリした姿をしているが、以前は必ずしもそうではなかった。ミッチェルはその時代の産物である。うすっぺらな箱のように角張っていて、長くとんがった透明な鼻っ先、肩をいからせたような翼、巨大なエンジンとプロペラ、大きなドタ靴のような必要以上に大きいズングリした車輪がついていた。そこにたたずんでいる姿は、完全装備の老兵士が背中を丸めているようなゴテゴテした印象であった。(P133)
映画撮影の名目で名優ウォルト・ウィットモアが購入し、キースが操縦することになる機。本作中でもっとも際立った存在がこのミッチェルだ。キースがだんだんこの老機に感情移入していくさまは、さすがライアルと思わせる秀逸な描写ぶり。
- 机の上に旅行斡旋業者が配るDC-7Cの模型があった。(P155)
パリサドス飛行場の管制塔の上の事務所にあった。「ちがった空」のDC-3をはじめ、ライアル作品はダグラスも多く登場する。もちろん、それだけ売れていたのだ。
- ハリウッドで反逆者というのは、ジャガーのかわりにポルシェを乗り回し、カクテル・パーティに汚れた半袖シャツを着て現われる人間のことである。(P178)
こういう例えに使われるからには、まずはポルシェの代名詞ともいえる911をイメージしたのだけれど、ハリウッドの映画スターということなら、これはジェームス・ディーンのことを言っているのか。つまり、彼が事故死したときに乗っていたことで有名な、550スパイダーである。
【名称】 | ブローニング・オートマチック・ライフル |
【分類】 | 銃 |
- 床の上にズングリした、重そうな機銃がころがっていた。すぐ思い出した。朝鮮でアメリカ軍が使っていたやつだ。BAR、ブローニング・オートマチック・ライフルだ。(P248)
キースに同行したルイスが持っていった銃。.30口径、あとは詳細不明。すみません。
- 車が見えた。白いメルセデスのサルーンだった。(P294)
レプブリカ空軍の公用車、それともネッドの私用車か。ちなみに、ライアルのこれまでの4作品において、メルセデスは必ず登場している。これは年代的に220か250Sあたりか。新しい方で250Sとみた。ほとんど根拠なし。
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