Mono Guide, "The Wrong Side of the Sky" / 「モノ」解説〜「ちがった空」


ライアル作品の「モノ」解説第2弾は、デビュー作「ちがった空」。本作は飛行機にまつわるシーンが多いのだけれど、私はもともと飛行機はそれほど詳しくないため、内容的に苦しい解説となりました。[1998/3/5]

※文中の引用(太字)は全て、早川書房刊「ちがった空」(松谷健二訳、ハヤカワミステリ文庫)より。

【名称】ダグラスDC-3
【分類】航空機

エンジンが摩滅した機齢17年のダコタ輸送機の副操縦士になってから彼はまだ日も浅いし、水割りの燃料をもらいながら黙っているような商売にも慣れていない。(P8)

主人公ジャック・クレイの愛機のダコタ=ダグラスDC-3。愛機といっても彼が所有者ではない。彼はスイスの航空輸送会社エアカーゴ社の雇われパイロットにすぎない。そのせいか、彼はそれほどこのダコタに思い入れがないようだ。しかし本作にはもう1機、戦時中に不時着したダコタが登場し、この朽ち果てたダコタについての描写シーン(以下、文中P81あたり)は、元パイロットのライアルならではと思わせる叙情感に溢れている。

飛行機はおれの専攻、ダコタはおれの専門−−しかし、ここのは違った。林に踏みいると、海の音、太陽の光と熱は、はたと切れた。 ≪中略≫ この機は、おれのというより、牧羊神のなわ張りか。神殿のように見える。髪の中がかゆくなってきた。


【名称】ピアッジオP166
【分類】航空機

最初、機種はわからなかった。高翼の小型機、翼端にガソリン・タンクのついているやつだ。やがて機は向きを変え前面を見せた。反りをうったガル・タイプの主翼。そうか、ピアッジオ・166か。(P8)

ジャックの相棒ケン・キトソンが操縦する、ナワーブ殿下所有のこの飛行機は、文中にあるようにユニークなスタイルを持つ。ありきたりで冴えない感じのダコタとの対比の妙を狙ったのか、ライアルはこういうのが巧い。本書ではダコタよりむしろこの機のほうに重点が置かれている感じで、ジャックがトリポリからキラ島(サクソスの南の小島)まで、暴風雨の中を操縦することになるのだけれど、その飛行シーンの緊迫感は最高。

また、この機の内装は「昔のツァー用ロールス・ロイスの調度みたいだ。」(P234)とジャックが評するほど豪華なもの。ジャックがこの豪華さを皮肉った、以下のケンとのやりとりがおかしい。

操縦桿に手を伸ばしかけたとき、ケンが副操縦士の隣りのドアをあけた。
「おいおい、いたずらしないでくれよ。ここはわれわれ飛行家の城だ」
「カラー・テレビもないのか」おれはやりかえした。「カラー・テレビなしの機で飛ぶのは、ごめんだね」



【名称】ダッジ・クーペ
【分類】自動車

やっとカウリングのネジをしめ終えたところへ、彼がビールを補給してきた。でこぼこに黄色に塗った中古の大型ダッジ・クーペで。(P10)

エアカーゴ社のアテネ駐在員、ミクロスの車。ダッジのクーペといえば、私は大好きなチャレンジャーを思い出すのだけれど、残念ながら年式的にそれはありえない。※チャレンジャーのデビューは1970年頃。


【名称】オールド・ファッションド
【分類】酒(カクテル)

「オールド・ファッションドにしろ。ここのは上等だ」 (P20)

なぜか、ケンの羽振りのよさをあらわすのにピッタリのカクテルだと思う。


【名称】ビッカーズ・ヴァイカウント
【分類】航空機

「そんな金持ちなら、なんでヴァイカウントでも買わないんだ?」(P20)

ヴァイカウントはイギリス製の名旅客機。ちなみにヴァイカウント(Viscount)とは子爵の意味で、イメージ的にはナワーブ殿下の自家用機に合っているかも。もちろん、自家用には大きすぎるけれど。


【名称】ダンヒル
【分類】ライター

おれがシガレットを差し出すと、ケンがダンヒルの金製ライターで火をつけてくれた。(P24)

金のダンヒル。これまたケンの羽振りのよさがよくあらわれている。


【名称】アブロ・ランカスター
【分類】航空機

「ダコタやランカスターは一便で四千から五千ポンド積んだね。」(P20)

ランカスターはイギリス製の第2次大戦中の代表的な爆撃機。ライアルも操縦した経験があるかも?


【名称】ベレッタM1935
【分類】

ついでに右手の上の引き出しを、さっとあける。そこの書類の上に、7.65ミリ口径のベレッタ・オートマチックがのっていた。(P46)

ミクロス所有。7.65mm口径ということからM1935と思われる。引き出しの中にしまっておくのが似合う、コンパクトなピストル。


【名称】メルセデス・ベンツ300
【分類】自動車

大型黒塗りのメルセデス300サルーンが、格納庫の角を曲がってあらわれ、ダコタの翼端あたりに停車した。 ≪中略≫ 連中がギリシアのどこでこんな車を手に入れたのか、おれには謎だった。ギリシアの道路は、この車には向かない。それとも、おれの価値の尺度が違うのだろうか?ちゃんとした道路でなら、メルセデスは手仕上げのロールス・ロイスにひけをとらないだろう。(P58)

ライアルは深プラでも、ロールスをメルセデスの引き合いに出している。英国人で元パイロットの彼としては、(航空機エンジンのトップメーカーでもある)ロールスにきっと思い入れがあるのだろう。


【名称】フォード・パイロット
【分類】自動車

波止場にはすでに島のタクシーが待っていた。 ≪中略≫ 古いフォードV8"パイロット"であった。スプリングがマシュマロみたいになっている。(P101)

実は私はこの車を知らなかった。で、ネットで検索してみたら、ちゃんと画像がありました。そうかこんな車だったのか(笑)。1940年代の車じゃあ知らないよなあ。


【名称】コルトM1911
【分類】

大型の軍用コルト=オートマチック.45だった。戦争やおばさんをおどかすには便利だが、せまい場所で素早く正確な仕事をするには向かない。(P121)

ジャックをつけ狙う悪党、ユースフ所有。コルト.45=M1911ガバメントと思われる。深プラにも登場した。余談だけれど、ガバメントといえばスティーヴ・マックイーンを思い出す。映画「ゲッタウェイ」や「ハンター」等で使用していたが、プライベートでも彼の愛用の銃だったそうだ。


【名称】ワルサーP38
【分類】

おれは監房の隅にもどり、マッチをすり、手中の拳銃をながめた。9ミリ=ワルサー=P38。銃把は厚いプラスチック製。溝が走っていて、しごく握りやすい。(P148)

かのルパン三世も愛用ということで超有名なワルサーP38。本書では後にルガーP08も登場するけれど、同じドイツ、同じ時代の銃でありながら、「P38=善玉が使う」「P08=悪玉が使う」というイメージが(私個人的に)ある。本書もまさにそのパターンで、納得。


【名称】ウェブレー&スコット.38
【分類】

おれはそいつをポケットから引っぱりだし、指で撫でた。重いやつだった。後装装置つき。ウェブレー&スコット.38の軍隊用らしい。(P152)

メハリの警官からうばった。ウェブレー&スコットMkIVの.38口径と思われる。ほぼ同じ形状で.455口径のMkVIの解説はこちら


【名称】チェスターフィールド
【分類】煙草

それから、手帳、ボールペン、チェスターフィールドを一箱、それに大きくて平たいクローム製ライターをほうぼうのポケットから取り出し、まるでチェスの駒をおくみたいに、おそろしくきちんとデスクの上にならべる。(P169)

アテネ警察のアナルコスの愛用の煙草。当時最もポピュラーな煙草のひとつであり、アナルコスが、一見平凡だけれど実は几帳面で優秀な警官であることを表しているのだろうか。ちなみにクローム製ライター(ジッポ?)は、後のストーリー展開にちょっとした意味を持つ小道具になっている。その意味とは...ネタばらしになるので知りたい人だけどうぞ


【名称】クライスラー
【分類】自動車

空港からはタクシーだ。それもクライスラーの最新型。(P174)

トリポリのタクシー。当時の最新型というと...うーん、古いアメ車は種類が多すぎてわかりません(笑)。ネットを検索したら出てきたサラトガというやつかも。自信なし。


【名称】ストレガ
【分類】

おれは、給仕に、「ストレガ、たのむ」と命じ、へルターににこやかにほほえみかけた。(P180)

トリポリのホテルでジャックが注文した。イタリアの、きれいな黄色をした薬草系リキュール。ちなみにストレガとは魔女のこと。


【名称】ルノー4CV
【分類】自動車

それから、玄関まではいるようなタクシーを、フロントに呼んでもらう。 ≪中略≫ 十分後、ルノーが階段に横づけになる。(P184)

当時の年式でタクシーに使われるようなルノーとなると、日野ルノーとして日本でも生産されていた4CVか? 文中後出のアナルコスが借りたルノーも同じと思われる。


【名称】.22口径のオートマチック
【分類】

おれは左手をユースフの腋の下にまわし、ズボンのポケットからそいつのピストルを抜いた。銀色に輝く小さなオートマチックだった。.22口径。金の彫刻があって握りは象牙で象眼してあった。(P191)

このピストルは何だろう? ワルサーPPかも。こんな豪華仕様のPPをヒトラーやヒムラーが使っていたらしい(でも .22口径ではないようだ)。また、仏マニューリン社によるライセンス製造版PPにも似たようなモデルがある。


【名称】ダグラスDC-4 / ダグラスDC-6
【分類】航空機

 ≪中略≫ ダグラスの大型機、DC4やDC6をマスターできる時間があれば、われわれこそ、まさに彼らの求めているものなんだがなあ。」(P262)

文中にもある通り、DC-4、DC-6共にダグラス社の4発プロペラの大型旅客機。しかし本作の時代(1960年前後?)には、すでにもっと大型のジェット旅客機(ボーイング707とか)が飛んでいたはず。


【名称】フィアット
【分類】自動車

数メートル先に、古いフィアットが1台パークしていた。(P273)

このフィアットは、「古い」となると有名なところで"トッポリーノ"こと500か? でも悪党が乗っていたので、ちょっと違う気がする...。いちおう、トッポリーノのWebページはこちら


【名称】ルガーP08
【分類】

ドアから、へルターがはいってきた。ずぶぬれのトレンチコート。ルガーを握りしめて。(P338)

ナワーブ殿下のお抱え運転手兼ボディガード、ヘルターが使う。モデル名は書いていないが、ドイツ人の悪役用の銃としてはお約束のルガーP08に間違いない。ずぶぬれのトレンチコートというのもお約束(笑)。


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